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2021年05月23日
マンガ 脱・「不登校」 加藤善一郎さんがSC・学校教員向けに講演
『マンガ 脱・「不登校」 起立性調節障害(OD)克服と「だいじょうぶ感」をはぐくむ』(学びリンク)の著者で小児科医の加藤善一郎さん(岐阜大学大学院)が、5月22日(土)、岐阜県など東海3県のスクールカウンセラーや学校教員向けに講演を行いました。
愛知、岐阜、三重の東海3県のスクールカウンセラーに特化した研究会「SC works GIFU」が1周年記念事業として主催したもので、オンライン会議システム「ZOOM」で行われました。
研修テーマは学校と医療の「教育医療連携」。岐阜市では今年4月に不登校特例校「市立草潤中学校」が開校。全国では初めての試みとして、小児神経専門医による「こころの校医」が配置され、加藤さんが務めています。
この日、加藤さんは「脱・<不登校>へのまなざし」と題して約80分間にわたり講演。「不登校の現状」「なぜ不登校になるのか」「内的環境調整」「外的環境調整」と4つのポイントで話されました。
岐阜市には現在約500名の不登校児童生徒がいます。加藤さんのもとには、毎週のように「不登校」を主訴とする初診があり、外来症例としては常時100例以上あるとのこと。こうした実態から、教育現場と医療が連携をはかり「共通言語の確立」が必要であると話しました。
特に長期化する不登校には、体調や気持ちの安定をはかる「内的環境調整」と、周囲の理解やシステムの変化を必要とする「外的環境調整」が必要であると解説。内的環境は治療や休養などで改善されていくが、ともに外的環境が調整されない限り、状態は安定せず不登校は長期化します。本質的な改善には、両輪でのアプローチが必要となると話されました。
一方、学校現場における「先生」自体が、その中でも最大の外的環境となることから、加藤さんは「教育システムそのものよりも教員の理解やサポート、安定化が最重要だ」と話します。その中で、不登校生への理解については多くの誤解があると指摘しました。
例えば、加藤さんは、診察する不登校生のほとんどに「知的アンバランス」があると指摘。知能検査で特性を判断する際に、多くの教員は全IQの結果のみで判断してしまい、生徒の本質的な困り感を見逃していると指摘します。知能検査の全IQは4つの下位項目の平均点で表されますが、数値が正常範囲や高い結果でも、下位項目の各数値にばらつきがあるケースもあります。例えば、言語理解の数値が正常範囲であっても、ワーキングメモリが低いと、「会話がスムーズにできてしまうので、実際は理解できていなくても、この子は問題がない、と思われてしまう。すると、理解できていないのは『ちゃんと話を聞いていないから』と態度の問題にされてしまう」のだと、実際の事例を用いて解説しました。
また、学校現場で行われるべき合理的配慮についても解説。加藤さんは、テストで答えが合っていたのに計算式が先生が指導したものと違っていたことから間違いとされた生徒の事例を挙げ、「能力があるにもかかわらず、教員がプロセスにこだわりすぎることで不登校を招いている」と指摘。
そこで、岐阜市の金華山を例に挙げながら、「頂上が同じでも、様々な登山コースがある。それぞれの利点を理解して尊重してあげてほしい」訴えました。また、実際の登山でも「階段を登る人や階段を避けて傾斜道を選ぶ人もいる」としたうえで、「学校はどうしても個々の階段を作ろうとしてしまう」と指摘。子どもたちを支援していくには、「いろんな道筋や歩幅、その時々の子どものやり方を見守りつつ、時に少しだけ手助けする」ことが大切だと話しました。
多くの不登校生を診てきた経験から、「不登校の現場は救命救急と同じ。社会的瀕死状態で、家族も息絶え絶えでやってくる」と話す加藤さん。その中で、「私たち大人はたまたま先に歳を重ねただけであって、自分たちにも得手不得手があるはず。<先生>という存在もあくまで役割を担当しているにすぎない」としたうえで、不登校で苦しんでいる子どもたちに対して「だいじょうぶだよ。自分たちもそうだった」というメッセージとともに、「おたがいさま」の意識を持つことが大切だとまとめました。
この日は、スクールカウンセラー、教員、学校関係者を限定に、応募のあった先着100名が聴講。約30分間の質疑応答の時間も設けられ、実際の現場からの生の意見や様々な質問も投げかけられました。
●マンガ 脱・「不登校」 起立性調節障害(OD)克服と「だいじょうぶ感」をはぐくむ