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2023年11月14日
私立通信制高校「実態調査」公表 私通協「学校運営研究会」
全国の私立通信制高校でつくる全国私立通信制高等学校協会(私通協)が、11月13日(月)、大阪市内で「学校運営研究会」を開催し、今年実施された実態調査の結果を発表した。私立通信制高校が不登校をはじめ多様な生徒の重要な役割を担っている様子が明らかになったほか、私学助成など十分な財政補助が受けられていない状況など教育活動における課題も浮き彫りになった。
調査結果の詳報について、吾妻俊治会長(東海大学付属望星高校)が報告を行った。調査は今年8月から9月までに協会非会員校も含めた全国の私立通信制高校に対し実施。31校からの回答を得た。
在籍生徒の状況については、18歳以下が全体の95.8%を占め、学年別では3年次以下が98.7%を占めた。回答した私立通信制高校の多くで現役世代の生徒が在籍している様子がわかった。在籍生徒の入学前の状況では、中学校卒・新入学生の55.5%、転入学・編入学生の52.2%が中学校や前籍高校で不登校を経験しており、在籍生の半数以上となった。一方で、約半数は不登校経験に関わらない理由で通信制高校を選択している状況もうかがえた。
教職員の状況では、有効回答29校の本務(専任)教員数が1,119人となり、本務教員1人当たりの生徒数は平均42人となった。これは、国が定めるガイドライン(教員1人当たり生徒80名)に対し、各校で基準以上の十分な教員配置が行われている状況が現れた結果となる。
在籍生徒の単位修得状況を見る単位修得割合では、令和4年度で94.6%、3年度96.6%、2年度95.0%となり、文部科学省調査で把握されている通信制高校全体の77.9%(公立校55.9%、私立校86.3%:令和3年度)を大きく上回る結果となった。また、在籍しながらも1科目も履修していない非活動生徒の割合は1.7%(令和4年度)で、文部科学省調査の通信制高校全体8.6%(公立校30.4%、私立校1.9%:令和4年度)と比較し、低い結果となった。さらに、中学卒・新入学生のうち3年で卒業した生徒の割合は83.4%となり、全体として回答した私立通信制高校では、多様な生徒を取りこぼすことなく、単位修得や卒業に向けた支援が十分に行われている様子が明らかになった。
(実態調査の結果について報告した吾妻俊治会長)
また、私通協は今回の調査で、各校の事業活動収支に関する調査も独自に実施した。全国の高等学校の事業活動に関する収支の割合は、日本私立中学校高等学校連合会の調査で把握されており、全日制高校における事業活動収入の割合は、生徒からの納付金(学費)が48.0%、経常費補助金等の私学助成が38.0%で、全体の約4割を補助金で賄われていることがわかっている。一方、通信制高校全体の割合は、前出の中高連調査によると、生徒からの納付金が77.1%、私学助成が11.0%で、生徒や家庭による負担が全日制高校に比べて明らかに大きい状況となっている。しかし、今回、私通協が独自に行った調査では、調査校(私立通信制高校)の事業活動収入の割合は私学助成が5.4%に留まり、全体平均よりもさらに生徒負担の割合が大きい状況となっていた。
事業活動における支出の割合については、人件費等の割合が全日制高校では63.6%、通信制高校全体は68.8%となっている(中高連調査)。それらと比較し、今回の私通協調査における調査校(私立通信制高校)は49.4%に留まり、より少ない人件費の中で教育活動が行われている課題が浮き彫りとなった。
今回の調査で明らかとなったのは、私立通信制高校が不登校など多様な生徒に対して、個々の状況に応じたきめ細やかな教育を実践している点や、財政補助が不十分な状況下でも教育環境の向上に積極的に取り組んでいる様子が挙げられる。吾妻会長は「私通協会員校の教育の質向上への姿勢が明確になった」と調査の成果を示しつつ、「通信制高校による教育の質向上への積極的な姿勢に対して、それを支えるべき私学助成は実際の教育内容とは乖離した状況であり、学校経営上の課題が顕在化している。通信制高校に対する私学助成の拡充に向けた要望活動の展開に際しては、通信制高校の現状と今後についての具体的かつ正しい認識に立った要望内容が不可欠」と課題を訴えた。
(議事進行を務めた小椋龍郎事務局長:写真右)
(オンラインによる配信も行われた)
この日の学校運営研究会は3部構成となり、第2部では文部科学省講演として、初等中等教育局の松田昌幸さんが、今年2月に一部改訂となった「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」、今年8月に報告された「高等学校教育の在り方ワーキンググループ中間まとめ」に関する報告と解説を行った。出席者からも複数の質問が上がり、国と学校現場の貴重な情報交換の場にもなった。
(会場からの質問を受ける文部科学省・松田昌幸参事官補佐)
第3部では研究講演として、大阪府認可の私立通信制高校でつくられる「大阪通信制高校グループ」の活動事例について、八洲学園高校の林周剛校長が報告を行った。同グループは2014年に発足し、これまで独自に情報発信や生徒保護者への進路開拓、行政への陳情・要望、各学校間の情報交換の機会などを実施してきた。林校長は地域グループ形成による通信制認知活動の活性化について、「各学校間が強調から協調、利害から理解の関係になることで、通信制高校が全体の通信ブランドを構築し、価値を高めることになる」と、各学校同士が協力し合うことの必要性を訴えた。
(大阪通信制高校グループの事例について話す八洲学園高校・林周剛校長)
全国私立通信制高等学校協会は1971年に発足。通信制高校の社会的地位向上を目指し、現在は教育の質向上や各学校間の情報共有、行政への要望活動などを行っている。会員校は2023年11月現在で38校。「学校運営研究会」は昨年から始まり今回の開催が2回目。会場には非会員校も含めた67名の教員が参加したほか、オンラインからも約40名の参加があった。
通信制高校は今年8月の学校基本調査(速報値)で、生徒数が前年度から2万6,530人増の26万4,797人となり、生徒数、前年度増加数ともに過去最高となった。私立通信制高校は20万7,542人で、私立校の生徒数が20万人を超えたのは初めて。
(取材・文:学びリンク 小林建太)