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2023年11月22日
児童精神科医 有賀道生さんに聞く 子どものこころに寄り添う(下)
正しい情報の発信と明るい未来の話をしていくのが私の役目
「子どもは大人が思っている以上に本当にすごくいろんなことを考えているので、うまく社会に適応できていなかったり、うまく参加できないっていうのは、たまたま参加できる条件が整っていないだけ。その条件を整えるための心の準備をしているんだと思います」。
有賀さんは、子どもの心の準備が整うまで信じて待ってあげてほしいと話す。その一方で全国どこへ行っても標準的な支援が受けられる精神医療の必要性をも強調する。
精神科医の役割はマネージメントも含むのでは。
講演活動をたくさんこなします。啓発みたいな話ですけど、発達障害というのは基本的に、例えば認知症と並ぶような一般的なハンディキャップとして共通に理解してもらわないと駄目だなと思います。発達障害は診られませんという精神科医は、はっきり言って問題外です。その理由は薬物療法によってすべて改善するっていうものとは違うからです。
現在の精神医療は薬物療法が主体の医学モデルが主流なので、社会モデルとか、生活モデルっていう支援となると、医学モデルでやっている先生にとっては非常に苦手さを感じていたりするのではないかと思います。自分も研修医のときはずっと医学モデルで教わってきました。例えば生物学的にはセロトニン仮説などは仮説以上でも以下でもない、結局全然分かっていないことがほとんどです。
このつらい状況を改善するには、薬よりもっと必要なことってあるよね、そういうところに立ち返ったときに、医者というのは少しマネージメントする立場でもあるんじゃないかなと私は思っています。医者が丸抱えする必要もなく、しかもできない。学校の先生は先生の立場、役割があるし、保護者もそうだし、他にもデイサービスなどがあるわけです。自分の立ち位置、役割、責任をそれぞれどう持つか。例えばケース会議なんかでは、それをはっきりさせるのが一つの役割だと思います。そして、そういうことをするのが、今後の精神医療では絶対必要かなと思っています。
さらに標準的な支援がどこに行っても届けられるっていうのが、本当に大事だなと思っています。診療報酬でいえば、どこの医者にかかっても同じようなお金を支払うわけですから、そういう意味ではもうちょっと標準的な支援がなされるべきだと思うんです。しかし、現実問題なかなか難しいですね。
親の孤立感が進むと負のスパイラルへと向かってしまう
もうほとんど、特に発達障害がある子どもの保護者の多くが、ほぼ孤独感を強く持っています。子どもが学校行かないとか、不登校になってしまうと、それでさらに強まっていきます。そもそも不登校になってしまうと、親が物理的に家から出られないっていう。子どもが低年齢だったりするとなおさらです。
仕事に行っていたのに、子どもが学校に行けないから家にいるしかないようです。今までは仕事に行っているときが、わりとほっとする時間だったのに、物理的にも孤立してしまう。そういう状態で過ごしていると、とにかくネガティブな思考にどんどんなるから、建設的な解決には至りにくいです。
あとはママ友なんかに話をしようと思っても、自分の子は発達障害じゃないからと、言っても全然ピンとこないとか、なかなか理解してもらえないようです。話すのがためらわれるというか、周りからは育て方がおかしいと思われるんじゃないかって、疑い深くなってしまうのです。それで、だんだん子どもが学校に行けないのは、自分のせいなのかなと自責の念が強くなってしまう。
あとは、夫との仲がすごく悪くなってしまい、「お前がこうだからこうだ」「あんたがもうちょっと見てくれないから」とか。そんな殺伐とした雰囲気で、子どもは「僕のせいで親の仲が悪くなっている」という、どんどん負のスパイラルに陥っていく。さらにこういう状況をなくしたい、消えたいみたいな。言ってしまえば、孤立の果てには死にたい。こういう心境に陥っているお母さんも結構いて、母親がカウンセリングを受けているケースもありますね。子どもと親の診察を両方やっているケースも非常に多いです。すべてが行き詰まっているという。
孤独な現代の親御さんへ子どもを信じて待ってほしい
「あのピースはどこにいった」と探しているのです。完成したときに自分の未来予想図ができる。それが完成するまで子どもの心の準備をしっかり信じてやってほしい。それを診察や各地講演会で私は伝えています。信じて待ってあげてほしいのです。パズルを組み立てているところを邪魔しないようにです。ひたすらはめ込んでいるんです。「あれがない。これがない」と。「見つかった、でもここにははまらないな、何でだろう?」のような試行錯誤を繰り返しているのです。
でも親の前では部屋の中でYouTubeを見たり、ゲームをしたりしている。ただ単にそれが好きだからっていうのではなくて、モヤッとした気持ちを端っこに寄せておかないとやっていられないよという。そういうものに没入するしかないという状況なんです。ゲームが超大好きでやっていますという子はあまりいなくて、たまたま楽しいというぐらいです。
昼夜逆転になっている子にとって、夜はみんなが寝ているから、ごちゃごちゃ言われなくて済む時間であり、ほっとできる時間なんです。昼に寝ていれば何も言われなくて済む。医者から、「もうそっとしておいてあげてください」と言われると、親は起こさないから。昼夜逆転になるにはもちろんいろんなストレス要因もあるんですけど、特に中高生の話を聞くと、夜のほうが自分らしくいられるようです。と言うことは、われわれ大人がいかに邪魔しているのかなということです。
つらい現実に耐えられないから、苦痛の緩和ですよね。心的苦痛の緩和の一つの手段としてゲームに没入してみる。それでも駄目な場合、いろんなことをやらかすようになってしまうわけです。よくあるリストカットとか。私が診ている中高生でも、自傷行為をしている子はかなりいます。ゲームはやっているとばれるけど、リストカットは言わなければ、ばれないですから。ばれない手段でするっていう子もたくさん出てくるわけです。
ゲームをしていると、「そんなのやっているんじゃない」とさんざん言われるから、ばれない方法で苦痛を緩和する方法として、そういやり方に置き換えている。なかにはだんだんリスカ自慢が始まったりして、またそれはそれで問題があるんです。1人でぽつんとやっているよりは、そういう仲間内でやり取りしているほうが、まだほっとするみたいなこともあると、中高生の女の子からはよく聞きます。
そういうような心の動きがあるっていうことを、親御さんにもどこかで知っておいてほしいなと思っています。最大の自傷行為って、誰にも助けを求められないことそのものです。1人でぽつんといる状態が最大の自傷行為です。
心の叫びを周りの大人が汲み取る
「何を言っても無駄なんです」とか、そういう話をする子はたくさんいます。「意味ないし」です。少年院に行けば、そんな子ばかりです。実際に外来に来ている子も、もちろん発達障害がある子でも、そこはまったく同じです。心の動きというのは、発達障害だから違うというわけではなくて、それはすべて同じです。
ただ、表現がすごく極端だったりするというのはあります。だってリストカット自体、すぐばれてしまいますよね。うまく、こっそりとはできないのです。特性が出てしまったなという子もいるんですけど、対処方法は一緒。「心の叫び」を食いとる、ということを親御さんにも分かってもらいたいです。
さまざまなサインを出してはいるはずなんですけど、それを見て見ぬふりしたり、大したことはないと勝手に解釈してしまうということは結構あります。サインを過小評価しないことです。学校に行けない最初の段階は、例えば「頭が痛い」なんて言い始めるなど、体のサインは心のサインかもしれないのです。
私は講演とか、日々の診療の中で、できるだけ正しい情報を伝えたいなと思っています。
そして、できるだけ明るい未来の話をたくさんしてあげたらとも思っています。今はまだピンとこないかもしれないけど、暗いというか、社会は厳しいんだからどうのこうのという、そんな話はしたくないですよね。確かにいずれは責任を負わなければならない立場にはなるけれども、いろんな楽しさや、やりがいがあるなど社会にはまだまだたくさんあるわけで、「学生もいいけど大人も悪くないぞ」、みたいなことも話していきたいです。
(取材・編集/学びリンク)
桐の木クリニック院長 児童精神科医
群馬大学医学部附属病院精神科神経科助教、 国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 診療所所長、横浜市東部地域療育センター所長などを経て、令和2年より現職へ。群馬県とくに西毛地区(高崎市・安中氏・富岡市など)の地域精神医療に従事し、「ゆりかごから墓場まで」すべてのライフステージにおけるメンタルヘルスケアの実践を試みている。また、群馬県内の各種講演会、研修会での講演活動のほか、県内の小・中学校、高等学校における教員へのスーパーヴァイズや、少年院へ嘱託医勤務し、犯罪・非行に関する矯正医療にも継続して携わっている。
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