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2024年04月17日
第2回 「何もしていない」状態の苦しさ ◇◇『通信制高校卒業後はどうなってるの?』(6回連載)
◎「何もしていない」が固定する
今回は、新しい学校の会(新学会)が実施した第3回通信制高校卒業生アンケート調査から卒業時進路未定だった人の卒業後を見ていきます。
表1で見るように進路未定だった人は、2021年度卒業生(卒業2年後)で約15%(213人)、16年度卒業生(卒業7年後)で約14%(188人)でした。通信制高校平均の進路未定者約32%に比べるとほぼ半分程度の比率となります。
通信制高校全体もこの傾向(大学・専門学校等進学比率増、進路未定率減)が強まっていくと私は見ています。
調査対象者の進路未定率が低い背景にも、回答者の大学や専門学校への進学率が反映されています。調査対象校は、大学・専門学校等進学率が約67%(21年度卒業生)と、通信制高校平均の約49%と比べると約18ポイント高くなっているため相対的に進路未定率が低くなっています。
21年度卒業時進路未定者の卒業後2年間の途中経過を見ると、「何もしていない」という回答は約35%(75人)で2番目に多い回答でした。さらにこの回答者75人の2年後現在までを追うと、約64%(48人)が「何もしていない」という状態でした。
「何もしていない」とは“働く”や“学ぶ”手前でどうすればいいのか分からない状態ではないかと見ています。ちょっと苦しい状態ではないでしょうか。
卒業時進路未定→(2年間途中)「何もしていない」→(2年後現在)「何もしていない」と回答した人の近況を自由記述回答から見ると、「人と接することが苦手で、バイトや学校などに一歩踏み出せない」という卒業生は母校への要望として「もう少し在学中の就職活動の支援や補助をしてほしいです」と述べています。「職安に何度も足を運んだが思うような就職先がなく、スーパーのパートで働こうとしたが初日から腹痛で出勤できず、結局未だに働くことができていない」という回答者も「卒業後のアフターケアまで行ってほしい」と母校に要望しています。
就職サポートの要望は高いと推測できます。また、ハローワーク(職安)で扱う就職情報よりも生活習慣や職業意識などから相談できる地域若者サポートステーション(通称サポステ)、ジョブカフェなどとつながった方がよい場合もありそうです。特に全国に177ヵ所と設置数の多いサポステとの交流が在学中にあると、卒業後に役に立つ場合があると思われます。
「進路未定」→「何もしていない」という回答者の2年後現在の回答には「浪人生」が約19%(14人)となっています。「予備校に通っています」「医学部を目指して浪人中」などと大学受験対策を行っています。この段階では浪人生も一定数います。
16年度卒業時進路未定者の卒業後7年間の途中経過を見ると、最も多い回答が「何もしていない」約45%(85人)となります。この85人の7年後現在を見ると、「何もしていない」という回答が約91%(78人)と高い比率を占めます。7年後現在「何もしていない」という回答のなかにも「求職活動中」「専門学校進学予定」など動きが見られますが、「何もしていない」という状況が自己評価(ニート、ひきこもりなど)も含めて固定化しています。卒業後2年後と異なり“浪人生”という回答はなくなりました。
近況として「卒業後いくつかアルバイト面接を試みるもうまくいかず自信をなくした。未知のこと未経験のことに不安が強く対人緊張もあり思い悩む」という回答者は、母校への要望として「対人的不器用さを理解したうえで、働ける人材へと成長できる人材サポートしている場所の紹介やチャンスがほしい」と述べています。
◎働くことで希望が見える
卒業時進路未定から次の進路として多いのは働く選択です。21年度卒業生は卒業後2年間の途中経過では「アルバイト」(約46%)が進路区分の中で最も多く、「就職」(約9%)を足すと半数以上の人が働いています。
16年度卒業生では、「就職」(約35%)が多くなります。「アルバイト」(約17%)を足すとやはり半数以上が働いています。
21年度卒業生で進路未定→(2年途中経過)「アルバイト」→(2年後現在)「アルバイト」の人は約88%(86人)と多くを占めます。自由記述回答を見ると「将来に就きたい職業に向けて努力しています」「今も変わらず居酒屋と児童施設でバイトしながら漫画家を目指してます」「アルバイトをしながら芸能界の夢を追っている」「やりたいことがあるので、そのためにアルバイトでお金を貯めている途中」など前向きなものが多く寄せられています。
その一方で、「働きたい気持ちは人一倍あるにも関わらず身体と心がついていけない日々」「躁鬱病で苦しんでいる。社会に適合できずフリーターでお金に困っている」など苦戦している人もいます。
16年度卒業生で進路未定→(7年途中経過)「就職」→(7年後)「在職中」の人からは「順調に仕事を続けています」「配送業→介護施設の調理→配送業と職業を変えていますが、今は配送業に落ち着きました」「仕事を転々としてはいますが、社会には出ている状況です」など紆余曲折はあっても20代半ばでそれなりに落ち着いた感想が寄せられています。
就職やアルバイトでの経験をすることで、好き嫌いも含めて自分に何ができるのか、何かをやりたいのならどうすればいいのかといった具体策がもてることで「何もしていない」状態を抜け出せる人が多いのだと思います。
※文中にある「卒業後2年後」「卒業後7年後」とは、調査時期の関係で前者は卒業後1年8カ月~10か月、後者は6年8カ月~10か月の時期になります。
(文責:学びリンク代表 山口教雄)
今回は、『「何もしていない」状態の苦しさ』についてご説明しました。いかがだったでしょうか?
次回は、『大学“退学”を見越した進路観』についてご説明します。次回もどうぞよろしくお願いします。