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2024年11月13日
実態調査を踏まえ「通信教育の質確保」議論 私通協
私立通信制高校の全国組織「全国私立通信制高等学校協会」(私通協)が11月11日(月)、大阪市内で「学校運営研究会」を開催し、全国から私立通信制高校関係者が集った。
協会は昨年度初めて実施した私立通信制高校の実態調査を今年度も継続実施。今年度は回答校が新たに16校増えた47校となり、非会員校からも7校の回答があった。調査対象生徒数は7万1306名となった。
調査報告によると、在籍生徒の年齢状況は18歳以下が96.2%。1校あたりの生徒数規模は1000人以下が51.0%、1001人以上が48.9%となり、3001人以上の学校は14.9%を占めた。入学形態では28.6%が中学卒業者による新入生であった。
在籍生徒の状況については、中学新卒者で中学校時代不登校だった生徒の割合は44.5%、転・編入学者のうち前籍校で不登校だった生徒の割合は46.8%で、いずれも約半数が不登校経験者である状況がわかった。就学支援金の受給状況では標準額受給者が24.8%、加算受給者が50.3%で受給率は75.1%。全国平均の73.3%より、やや高い割合となり、特に加算受給者の多さが目立った。
指導体制の状況については、教員一人あたりの生徒数は41.9人となり、文部科学省がガイドライン上で求める80人に1人に比して手厚い整備状況が見られる。中学卒からの新入学者が3年間で卒業した生徒の割合は80.2%。卒業者の進路状況は大学20.5%、短期大学3.3%、専修学校(専門課程)21.8%、就職(常用)12.7%となり、進路未定者は25.5%となった。
生徒の退学・転学状況については、「学業不振・学校不適応」「進路変更」を理由とする割合が、全日制高校を含めた文部科学省調査の全体平均に比べ低い結果に。一方で「病気・けが等」7.4%(全体4.9%)、「経済的理由」7.1%(全体1.4%)については全国平均より高い割合となり、通信制高校生に対する体調面や経済的支援の必要性が浮き彫りとなった。
また、協会は各校の事業活動収支についても調査。事業活動における収入の割合は、生徒納付金が83.5%、経常費所補助金等の助成金が5.6%となり、日本私立中学高等学校連合会が報告している全日制高校の全国平均(生徒納付金46.9%、経常費補助等37.8%)と比べ生徒負担率が高い状況がうかがえる。全日制高校と通信制高校の私学助成の格差の影響が浮き彫りとなったかたちだ。
調査結果を受け、同協会の吾妻俊治会長は、対象校が増加した状況にも関わらず、ほとんどの項目で昨年と同様の結果が見られたことを報告。これについて「調査の有効性と会員校の教育の質向上への取組みが実証できていることが確認できた」と評価した。一方で「私立通信制高校の実態が教育界の中で把握されていない。今後、私学助成の格差是正を呼びかけていくには、これらの調査結果を明確な根拠として要望していくことが欠かせない」と、今後の調査継続の必要性を伝えた。
(調査結果と活動報告を行った吾妻俊治会長)
このほか第2部では、文部科学省初等中等教育局の度會友哉参事官補佐が、通信制高校の現状と今年度実施している通信制高校への点検調査について報告した。今年度の点検調査では、一部で不適切な運営事案があったことが具体的な内容とともに伝えられ、講演では、添削指導や面接指導における指導方法、教職員の配置、収容定員などの指導体制、サテライト施設の在り方や所轄庁による指導監督など、ガイドラインが示す内容について、議論の背景や課題なども踏まえて説明された。
また、質疑応答では、ガイドライン上に全日制・定時制の教育課程で定められる授業の標準「1単位35単位時間」に対し、通信制課程においても「同等の学習が求められる」と明記されたことに関する質問が挙がった。これに対し、度會さんは「現実的に35時間勉強したかをすべて確認するのは難しいと思っている。ただ、その時間相当、その子が学んでいるという学びの進捗管理をして頂きたいという趣旨」であると回答した。
(通信制高校の現状について説明する文部科学省度會友哉参事官補佐)
第3部では、通信教育の質向上への具体的な取組みとして、村上学園高校(香川県丸亀市)の村上太校長が研究講演を行った。村上校長は、通学コースによる全日スタイルの指導と通信教育の位置づけを改めてとらえ直し、どのコースであってもすべての生徒の通信教育の質が確保されていく運用の在り方について、自校の経験をもとに説明した。一方、通学を重視してきた同校にとって「多様性を確保し、生徒に様々な体験を通して社会性を身につけさせていくためには、どうしてもコストがかかる」と経営上の難しさについても言及。そのうえで、私学助成における全日制高校との格差がある中で、全日制と同等の質を担保していくことへの不公平性について課題を訴えた。
(研究講演を行った村上学園高校の村上太校長)
全国私立通信制高等学校協会は1971年に発足。急激に変化する通信制高校の状況を踏まえ、2022年に組織刷新と活動活性化を図り会則を改訂。通信制高校の社会的地位向上を目指し、現在は教育の質向上や各学校間の情報共有、行政への要望活動などを行っている。会員校は2024年10月現在で47校。「学校運営研究会」は今年の開催で3回目となり、会場には非会員校も含め多くの学校経営者、教職員が参加したほか、オンラインからも参加があった。
(協議を進行する吾妻俊治会長(左)と小椋龍郎事務局長)