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2025年01月09日
日本通信教育学会第72回研究協議会/シンポジウム『過去と未来をつなぐ「通信制高校の現在地」―通信制高校の未来を見つめて―』
開かれた教育としての通信教育を目指して
11月2日(土)、日本通信教育学会(会長:鈴木克夫氏)の第72回研究協議会が桜美林大学千駄ヶ谷キャンパスにて開催されました。
日本通信教育学会は、1950年に発足された日本通信教育研究会を前身とし、開かれた教育としての通信教育の普及発展を目指して、学術研究や調査活動を行っています。
2日は、会員による研究発表と『過去と未来をつなぐ「通信制高校の現在地」―通信制高校の未来を見つめて―』と題したシンポジウムが実施されました。
シンポジウムでは、日々輝学園高校の理事長・校長の小椋龍郎氏、神奈川県立横浜明朋高校総括教諭(元神奈川県立横浜修悠館高校副校長)の田上英輔氏、そして学びリンク代表の山口教雄がシンポジストとして登壇。通信制高校のこれまでとこれからの展望について話しました。
シンポジストがそれぞれの考えを発表 通信制高校の未来を探る
はじめに、田上氏が『公立通信制高校の存在意義とは』と題し、発表を行いました。神奈川県立高校に勤めて39年目となる田上氏は、内10年間を通信制高校で勤務。全日制・定時制・通信制とすべての課程を務めたからこそ見える、公立・私立の違いと現状について話されました。
公立校は教員1人が見る生徒数では私立校をよりも恵まれているものの、その他の養護教諭や事務職員、実習職員など生徒をサポートする職員数は圧倒的に私立校が勝っている現状を指摘。その他にも、履修登録した生徒がどれだけ単位修得ができたかを示す単位修得効率、在籍生徒の内履修登録を行った生徒の割合を示す活動率でも私立校と大きな差ができています。こうした現状に田上氏は「通信制高校は教育の未来モデルという認識を持って、行政には資金と人材を重点投資してほしい。そして学校側としても誰一人取りこぼさない、最後のセーフティネットとしてアナログな取り組みが必要です」と述べました。
次に発表を行ったのは、小椋氏。『生徒状況の変化に伴う、通信制高校の「役割」の変移の観点から』と題し、通信制高校の制度ができた1948年から現在までの社会と教育の状況に触れながら通信制高校の変遷を話しました。
“教育の機会均等”の実現を目指す制度という状況から、不登校・発達の課題を持つ子など様々なタイプの子どもたちの“セーフティネット”の役割に。そこから現在は興味関心に合わせた学びなどで自身のやりたいことにチャレンジする生徒が増え、“多様な学びの場”となっていると分析しました。
こうした現状に小椋氏は、「多くの問題を抱えながらも少しずつ進歩し、今ではマジョリティとは言わないにしても、マイノリティではなくなったと思います」とし、今後の在り方については、「セーフティネット、多様な学びの場と進んできましたが、さらにダイバーズラーニングでITをベースとして多様な学びができる学校になっていくのではないかと思います」と述べました。
最後に、学びリンクの山口が発表を行いました。最近の通信制高校は“囲い込み”と“青田買い”の傾向があると分析。「通信制高校の転編入生が減っているとされることがありますが、これは併置校による生徒の囲い込みが大きいです。一方で、早くから通信制高校の入学ルートに乗ってもらうために、中等部・フリースクールを開設し、いわゆる青田買いを行うところも出ています」と、生徒増の要因を述べました。また、生徒増の要因の一つとして女子生徒の増加もあるとする考えを伝えました。
一方で、通信制高校は卒業時の進路未定率が全日制・定時制に比べて高いという課題と弱点も指摘。ただ、近年大学進学率が上昇したことで、10年前に比べると進路未定率は10ポイント減少している点にも言及しました。今後も、大学進学率に比例して進路未定率が減少すると予想しました。
しかし、山口が懸念を示したのは進路未定率よりも、卒業生がその後「何もしていない」状況にあること。新しい学校の会(通称:新学会)が通信制高校の卒業生に行ったアンケート調査によると、卒業時進路未定者はその後、働くことも学ぶこともしていない「何もしていない」状況にある人が非常に多くいました。山口は、「卒業生の状況は調査して見なければ分からないため、苦戦していたとしても見て見ぬ振りができてしまう。卒業生の支援が生徒募集につながれば、こうした状況も改善される可能性が高いため、及ばずながら力になっていきたいと思います」と考えを述べました。
その後は、シンポジスト同士の意見交換会や参加者からの質疑応答の時間が取られました。
会の最後に、小椋氏は「私どもが考えているのは、3年間という限られた時間の中で子どもたちをどう次のステップに行かせるか。そのために教育のしくみや運用を考えていくことが重要です。ただ、しくみ論に注視してしまうと、通信制の教育をどう変えるのかという本質から離れてしまう可能性があるので、子どもたちに向き合うことを大切にしたいと考えています」とし、今後は公立校ともつながりを持っていきたいと述べました。
田上氏は、「通信制に進学してくる生徒たちは、中学以前に人とのつながりで失敗した子が多いです。そのため、達成感や成功体験と同じくらい挫折を乗り越える体験も必要です。こうした経験をトータルにできる場所として部活動にはもっと力を入れて良いのではないかと思います」と考えを話しました。
日本通信教育学会では、通信制高校や通信制大学、通信制大学院での通信教育と、社会通信教育や企業内教育などの学校外での通信教育に関する学術研究と調査を行っています。ぜひ興味のある方は下記より詳細をご覧ください。
(取材・文/学びリンク編集部 片山実紀)