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2025年11月05日
拡充される就学支援金のウラオモテ◇◇気になりますね通信制高校!
文・分析 山口教雄(学びリンク 代表)
◎26年度からの私立通信制高校就学支援金拡充
2026年度から授業料を減額する国の高等学校等就学支援金(以下、就学支援金)が拡充されます。
私立通信制高校生に対しては、在学する高校の授業料を上限に図1で見るように、25年度の上限29万7,000円から33万7,000円に4万円増額されます。通信制高校の大部分を占める単位制の場合は、1単位当たり12,030円から13,660円程度(※)に増額されます。 ※11月5日現在未公表
世帯収入の上限所得制限はなく、全ての生徒が対象です。表1で見るように私立通信制高校の1単位あたり授業料は、現状では約95%が1単位 1万2,000円以下となっているため私立通信制高校の卒業に必要な学費の約6割を占めている授業料はほとんどの場合授業料実質無償となりそうです。
一方、私立通信制高校生の65.7%(文科省調べ、2017年)が利用している通学コースについて見ると週1日コースの平均授業料はほぼ無償となりそうですが、多くの生徒が利用する週5日コースの場合は就学支援金で減額できるのは半分程度にとどまります。
全日制高校は、25年度の上限39万6,000円から45万7,000円に6万1,000円増額されます。全日制と通信制との格差は、9万9,000円から12万円に拡大します。


◎私立通信制高校“性悪説”!?
就学支援金拡充の動きは、下記の「就学支援金拡充を巡る動き」にあるように今年1月の自民党、公明党、日本維新の会の3党協議によって始まりました。
2月の段階ですでに「45万7,000円」への拡充という方向が示されました。通信制高校関係者の間でもこの時期はこの金額になるのではないかという情報が飛び交いました。一部の学校の中には、45万7,000円を前提に授業料の学則変更を検討するところもありました。
ちなみに、45万7,000円を通信制高校主流の1単位あたり授業料に変換するには「45万7,000円×3(年間)÷74(単位)」という式になります。「18,527円」になりますから、1単位18,000円ぐらいで検討されたようです。
就学支援金拡充は、生徒や家庭、そして学校も笑顔で歓迎する方がほとんどだと思います。その一方で、文部科学省はこういう戒めを忘れていません。
「便乗値上げは許さない!」
さらに、便乗値上げがあった場合には「私立への補助金減額措置」という罰則まで用意しています。私立校、特に私立通信制高校“性悪説”とも感じます。3党協議のなかでも、一部の私立通信制高校に関し「教育の質を担保できていない」との指摘があることから全日制と同額とすることは見送ったとされます。
また、9月に開催された自民党「教育・人材力強化調査会(会長:柴山昌彦元文科相)」では広域通信制高校を対象外とする方向まで示されました。通信制高校関係者には思いも寄らなかったことでアゼンとしました。
就学支援金のような高校全体の問題に対しては、全日制高校の場合はそれぞれの地域に私立中学高等学校協会があり、それを束ねる全国組織もあります。ある程度、統一した動きができます。
一方、私立通信制高校の場合は前述の協会に入っている学校もありますが、全国組織は全国私立通信制高等学校協会(私通協)があるものの本格的に加盟校拡大に乗り出したのがここ3年程度で、加盟校は約60校程度とまだ私立通信制高校全体の四分の一程度の組織率です。このため通信制高校全体で統一した動きをする前に、ある意味“抜け駆け”のような動きをする学校も目立つのです。
そもそも、当初から就学支援金拡充の対象は全日制高校をベースに考えられていました。議員関係者の間には全日制高校生と通信制高校生の間で就学支援金の金額が異なっているという認識がなかった(あるいは少なかった)と思います。
通信制高校生への就学支援金の金額が決まったのは、10月の最後の週です。志望校を決める際には授業料を含めた学費は重要事項の一つでしょうから、文科省にはそれまでに多くの問合せがあったそうです。
こういう面からも通信制高校全体の要望を取りまとめできる力のある業界団体が必要でしょう。
《就学支援金拡充を巡る動き》
2025年1月 自民党、公明党、日本維新の会協議。維新は就学支援金について、25年度中に全国で所得制限を撤廃すること、公立高に通う世帯は全て無償化し、私立高の世帯は支給の上限額を年63万円に引き上げることを提案。
2/14 自公は、維新に就学支援金拡充案を提示。25年度から公立、私立ともに年収にかかわらず年11万8,800円を支給し、私立に通う年収590万円未満の世帯に年39万6千円(全日制)まで加算される支援金に関し、26年度に所得制限を撤廃するとの内容。
2/16 日本維新の会の前原誠司共同代表(当時)が私立高校に通う世帯向け就学支援金を年63万円以上にこだわらないが45万円以上にすべきだとの認識を示す。
2/18 自民党文部科学部会は自公維3党高校授業料無償化協議に関し、対応を柴山昌彦元文部科学相に一任。
2/25 自公維3党党首、25年度予算案の修正に関する合意文書に署名。維新の主張を踏まえ、①公立・私立高生就学支援金標準額11万8,800円の世帯年収910万円未満としている収入要件を撤廃し全ての家庭に支給する、②26年度から私立高校生向けの就学支援金を45万7,000円(全日制)に引き上げることを明記。
2/28 自公両党25年度予算案と税制改正関連法案の修正案を国会に提出。就学支援金の見直しでは、所得制限を撤廃して年収910万円以上の世帯にも11万8,800円を支給する。87万人が対象。関連費用1,049億円を追加計上。
3/3 自民党の山田賢司衆院議員が衆院予算委員会で、自公維3党合意した高校授業料の無償化について、外国人学校を対象から外すよう政府側に要求。
4/3 自公維3党高校無償化実務者協議。私立高校の授業料の便乗値上げ対策などの制度設計を優先的に議論することで一致。
5/23 自民党、3党合意した高校授業料無償化に関する対処方針に超富裕層まで支援することの妥当性を検討すると明記。
8/29 文部科学省、26年度予算の概算要求で、高校授業料無償化について政治主導の制度設計が間に合わないとして予算金額を示さない「事業項目要求(事項要求)」とする。
9/5 自公維、高校無償化実務者協議を再開。26年度からの無償化に向け、公立高校離れへの対応策や教育の質の担保、財源などについて議論。26年度入学の生徒募集の準備に間に合わせるため、制度の詳細を10月中にまとめることを目指す。
9/10 自民党「教育・人材力強化調査会(会長:柴山昌彦元文科相)」が高校授業料無償化について広域通信制高校は対象外とする方向で検討を進めていることを明らかにする。
10/29 自公維3党高校無償化実務者協議が財源策に先行して詳細な制度設計に合意。
合意内容によると、26年度から私立高校の就学支援金の支給上限を①全日制で年45万7,000円(25年度39万6,000円)、②通信制で33万7,000円(同29万7,000円)にそれぞれ引き上げ、上限所得制限も撤廃する。
教科書代や修学旅行代などを支援する奨学給付金を、生活保護世帯や住民税非課税世帯に対し1人あたり最大年15万2,000円給付を「中所得層」まで拡大する。
私立高校の「便乗値上げ」も懸念されるため授業料を一元的に確認できるウェブサイトの整備や、便乗値上げをした私立への補助金減額措置などによって対策する。
◎公的教育費拡大を!
30年間に渡って不景気が続くわが国で「生活が苦しい」とする世帯は、厚生労働省の調べでは58.9%とされます(「2024年国民生活基礎調査」)。児童(18歳未満の子ども)のいる世帯では64.3%が「生活が苦しい」と回答しています。さらに言えば、「生活がたいへん苦しい」という児童のいる世帯は23年度から24年度にかけて28.5%から33.9%に増えています。
この傾向は、数値で示されなくても体感として予想がつくのではないでしょうか。児童のいる世帯が「生活が苦しい」状態になることが予想されるのに誰が家族を持つかということです。
わが子が自分らしい選択をしていくためにも、同時に少子化という社会が弱体化していく方向を改善するためにも授業料無償化だけでなく幼児教育から大学院までの教育費全体の無償化は速やかに実施することが必要だと思います。
OECDの調査した「政府支出に占める公的教育費割合(小中高・大学生、2025年)」によれば日本の割合はOECD諸国平均の7.39%よりだいぶ低い5.50%となっています。教育費割合の拡大が今ほど求められている時代はないと思います。
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