ニュースの読み方・社会の見方⑪<最終回>
「日本のジャーナリズムを育てるのは私たちです」
2019年1月21日
「世界の報道自由度ランキング2018」を5段階で表示した地図(日本は三番目の「問題な状態」) |
私にとってウォーターゲート事件が印象的なのは、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなどのメディアが大きな役割を果たしたからです。特に、FBIという権力の中枢に入り込み、副長官から情報提供を受けていたワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者の活動は驚きで、アメリカにはジャーナリズムがあると感激しました。私が新聞記者になった年にニクソン大統領は辞任したのです。
日本では、その年に土地転がしによって不当な資金を得ているとして田中角栄首相の金権体質が批判され、大きな問題になりました。それはフリージャーナリストが月刊雑誌に掲載したことから暴露されたもので、結局田中首相は退陣に追い込まれました。私はベテラン政治記者から「みんな知っていた」という話を聞きました。政治記者は政治家に深く食い込んでいます。「知っていたなら新聞に書くべきだ」と私は憤りの気持ちを抑えきれませんでした。日本にジャーナリズムはないのか、と落胆したのを覚えています。
田中首相は1976年にアメリカからの大型旅客機購入の際の5億円収賄容疑で逮捕されましたが、それもアメリカで発覚したものでした。そのときも日本のジャーナリズムはどうしたんだ、と自分もその一員として残念に思ったものです。
国境なき記者団という団体が毎年出している「世界報道自由度ランキング」というのがあります。「メディアの独立」や「メディア環境・自己検閲」などの基準を数値化し、世界の国々で報道の自由がどの程度かをランキングで表したものです。
日本は2018年ランキングで67位。前年は72位なので5位上がりましたが、決して高い方ではありません。アメリカは45位です。神経質になることはありませんが、日本は2011年には11位でしたから気になっています。
日本には日本的ジャーナリズムがあり、アメリカにはアメリカ的ジャーナリズムがあります。いずれもまだまだ理想の姿には達していません。しかし、メディアは、司法・立法・行政に次ぐ“第四の権力”と呼ばれるほど強く、大事なものです。純粋な気持ちでがんばっているジャーナリストはたくさんいます。私は、そういう人たちを応援していくことで日本のジャーナリズムをよくしていきたいと思います。ジャーナリズムは、民主主義と同じようにそれぞれの国民が育てていくものです。そうすれば世界報道自由度ランキングも先進国並みに上がっていくでしょう。