椎名雄一先生コラム『不登校に効く心理学の話』33
完璧主義と完璧の範囲
2023年10月24日
日々皆さんとメッセージのやりとりをさせていただいたり、カウンセリングをする中で気づいたことや傾向などをこのコーナーでお伝えしています。
完璧主義という言葉をよく聞きます。
この言葉の危ういところは「何について」という概念が抜けてしまっていることです。カレーライスを作る時に「じゃがいもの切り方、茹で方について完璧」でも美味しいカレーライスは作れませんし、完璧にするために「夕飯の支度に10時間かかったら、、」家族はもう寝てしまっています。
完璧主義とセットにしなくてはいけないのは「何について」つまり「完璧である範囲」の限定です。
私たちが自由にできる時間や資源には限りがありますから、「完璧なゲーマー」を目指せば「不完全な学習」「弱く不完全な肉体」「人間関係の希薄さ」などどこかに歪みが出てきます。何かを完璧にするというのは限定されていない部分が人並み外れて疎かになるからです。
完璧主義の人はまず一歩下がって、テーマ選びをする必要があります。
今年1年、、、あるいは今日1日を「何について」完璧を目指すのか?
「勉強」でも良いし「人間関係」「自分自身の成長」「ゲーム」「体力づくり」「生活習慣」どれについて完璧を目指すのかを選ぶと良いと思います。
そして、選んだテーマ以外を「不完全な状態にする」とも決めると良いです。
学力や体力、人間関係や生活習慣はボロボロで完璧なゲーマーを目指す。という感じです。
そして1年後、それが達成された場面を想像してみます。
どうでしょうか?
友だちがいなく、虫歯や腰痛に悩まされ、学力は全くなく、散らかった部屋でゲームだけ完璧な自分、もちろん家族関係も良くはない。それで良さそうでしょうか?
完璧とは多くの場合そういう形をしています。
一方で「勉強」も「ゲーム」も「健康」も「人間関係」も、、、と全てを完璧にしようとする子もいます。その場合にはおそらく途中で疲れてストップしますが、それを経験するのがとても大事かと思います。「失敗しないように」と途中で介入してしまうと完璧主義の欠点に気づきにくいので、やれるだけやって、エネルギーの配分がおかしくてうまくいかない経験をすることは完璧主義を改善していくための薬になります。適切なエネルギーバランスになるまでに10回20回と失敗をするかもしれませんが、(1)その失敗の過程で得た経験 は間違いなく力になります。そして、(2)時間や資源、体力は無限ではないという感覚を身につけることに意義があります。
そこまで見えたらもう一度、今年1年、、、あるいは今日1日を「何について」完璧を目指すのか?を考える時間を取るといいと思います。今度は先を見越したバランスで対処することができます。
「何について」完璧を目指すのか?を自問し続けることで「完璧である範囲」をどうやって設定したら良いのか?詳細にこだわるよりも全体にこだわった方が良いのではないか?全部をクリアするよりも重要なものをクリアした方が良いのではないか?という気づきにつながってきます。
新しい学校に登校した時に「完璧である範囲」が何かを予め決めておくことはハードルを下げることにつながります。1人のクラスメイトに「さようなら」と言って帰ってくる。という範囲ならば完璧にこなせる確率がグッと上がるからです。
最後に「完璧である」ということは「仲間がいらない」「手直しがいらない」「協力しなくて良い」というような意味になることもあります。「不完全であるからこそ」のつながりや役割も実際に生きていく上では大事ですね。そして、「不完全であるからこそ」も含めて、完璧を目指そうとすると完璧の次元が変わってきます。大人でも難しい問だと思いますので、ぜひこのテーマについて考えてみてください!