椎名雄一先生コラム『不登校に効く心理学の話』④
長考させてあげたい
2022年6月1日
日々皆さんとメッセージのやりとりをさせていただいたり、カウンセリングをする中で気づいたことや傾向などをこのコーナーでお伝えしています。
今日は「長考させてあげたい」という話です。
将棋や囲碁の用語で「長考(長時間次の手を考える)」という言葉があります。
人生のいろいろな場面で「長考」が必要な時がありますよね。
友だちとの関係をどうしよう?
これからの人生をどうしよう?
どうしてもやる気が出ないのをどうしよう?
そんな大きな課題を抱えてしまった時にはそれこそ「長考」が必要です。
人生のあり方を考え直す時。混乱した気持ちを整える時。複雑な作戦を考える時などには私たちは時間を必要とします。数日、数ヶ月かけて長考しないと見えてこない答もあるのです。
「長考」といっても将棋の棋士のようにかっこよく、「うーむ」と考えるわけではありません。ゲームをしたり、30時間くらい布団にもぐっていたりしながらじわじわと考えが落ち着いてくるのを待つような感じです。
一方で家庭訪問に行くと5分に1回話しかけているような家もあります。「何か飲む?」「何か飲む?」「何か飲む?」5分おきに言われてもそんなに飲めないだろうな、、、というような感じです。その家では長考は5分で遮られてしまうので、「不登校問題を5分で全部スッキリ解決する」ということが求められてしまいます。そんなに簡単ではないからいつまでも答えに辿り着けない。
私の知り合いの画家は絵を描く前に大きな真っ白なキャンパスの前に3日くらいいると言います。真っ白なキャンパスを半日見ているとうっすらと構図が見えてくるらしいです。2日目に全体の色味とかが見え始め、3日目には「なぞるだけ」くらいにまで絵が見えてくる。その3日間に話しかけられたり、びっくりするような大きな音がしたらその想像の絵が全て消えて、真っ白に戻ってしまうのだとか、、、
学校からの連絡が毎日ある。
毎朝、「今日はどうするか?」と聞かれる。
それでは毎回リセットされてしまって、不登校後の人生を描くことができませんね。
去年の年末に家出をした高校生の話を聞くことができました。お小遣いを全額握りしめて高速バスに乗って新宿に行き、3日ほど自分のことを誰も知らない街をうろうろしていたのだそうです。3日目になって、突然涙が溢れてきて、これまでの悔しさや本当の気持ちのようなものが噴き出してきたと言います。「親と向き合う。学校と向き合う時間よりも人生に向き合う時間が必要だった」とその子は説明してくれました。これから何をしようか?はまだ決まっていないけれど「自分の人生をやろう」という芯のようなものができた様子でした。
「長考」ができた子は人生や自分自身の在り方、自分で生きる覚悟のような次元で何かを見つけています。「長考」が許されなかった子は本当に適当に「学校にっていれば良いんでしょ?」くらいの気持ちの整理で学校に戻っています。5分に1回話しかけられる子は「親の考えが頭に入り込んできて、何も考えられない」と言っています。
そのためには「待つ」ということが欠かせません。
もちろんただ待っているのではお子さんがうまく「長考」できなかったり「長考」してくれないこともあります。
それを戦略的にクリアしていく方法を「保護者会」「勉強会」「カウンセリング」「心理学講座」などでお伝えしていますので、
ぜひお役立てください。ひとりで考えている保護者だけが去年と同じことを今年も言っています。そうならないように気をつけたいですね。